特許行政年次報告書は、「知的財産をめぐる国内外の動向と特許庁の取組について、特許庁が取りまとめたもの。」です。
知財に関する業務をしている方にとっては、確認しておいた方がいいのはたしかですが、分量も多く、なかなか確認するには後回しにしがちなものと思います。(私のことですね(汗))
項目別に、気になったところを確認しましたので、感じたところをまとめておきます。今回は、その1として特許に関する数字です。
1.日本国の特許出願件数推移等
日本国内の特許出願件数は、減少しているといわれてきたが、2020年以降は下げ止まり感がある。おそらく、各社、特許出願の方向性が決まりつつあり、それが安定してきたのではないだろうか。
特許登録率が増加傾向である点は、上記POINTに記載されているように特許出願の厳選が進んでいること、量から質への転換が進んでいることもたしかにあるとは思う。
しかし、近年、審査があまいということも聞く。様々な要因が考えられる数字ではあるが、今後この数字がどのようになるか注目したいところである。
日本国特許庁を受理官庁としたPCT出願は、2019年までは増加傾向だったが、2020年以降横ばいといったところ、日本国内の特許出願も2020年以降横ばいに近い状態であるため、こちらの数字をあわせてみても、各社、特許出願の方向性は決まりつつあるのではないだろうか。
2.主要国の特許出願件数推移等
(1)特許出願件数推移・登録件数推移
まずは、世界全体での特許出願件数の推移は増加傾向である。この伸びは、中国人による中国への出願が大きく起因している。
この中国での出願件数が安定して、次の段階に入った時、実務上どのようなことが起こるかが問題と思うが、何か変化が起きたとき、すでに時遅しとならないよう、中国でビジネスをやるのであれば中国での権利取得を、ある程度進めていくことは必要と考える。
世界全体での特許出願の増加に伴い、登録件数も増加している。
国別にみると、中国居住者による登録件数のうち9割くらいは中国での登録である。この数字からも特許出願への助成制度の影響が強いのは容易に予想される。この点は、今後どのように変化していくか注目したいところである。
他方、その他の国、例えば日本では半数は外国での登録であり、各社ビジネスのグローバル化に伴い外国特許出願も活発であることがわかる。
参考:【20-01】日本と中国における特許出願への助成制度の比較(2020/02/19)
(2)庁別出願件数推移等
IP5の出願を内国人、外国人別にみると特徴的なことがわかる。
日本・中国・韓国は内国人による出願が多く、米国・欧州では半分が外国人によるものである。
これは、様々な要因が考えられるが、外国人からみてその国・地域がどれだけ魅力的な市場であるか、どれだけ特許権が武器になるか等の理由ではないだろうか。
日本は、特許査定率が増加していることは、ほかのグラフからも確認できたが、主要国を比較すると、米国はさらに高く、韓国と同程度であることがわかる。
日本の審査があまいのではないかという話は、あるものの実はグローバルスタンダードになってきたともいえるのかもしれない。
権利化担当の実務者の方にとっては、かなり気になる数字だと思うので、特許査定率については、主要国と比較して確認が必要かもしれない。
(3)新興国における特許出願推移等
これは、ビジネス展開と大きく関係しているのではないだろうか。シンガポールでは研究開発拠点としての地位の向上、ベトナムでは、日本企業の工場があるということも聞く。
参考:東南アジアのハブ、シンガポールの魅力とは?(2018/02/09)
参考:研究開発拠点の地位向上(2023/04/24)
参考:ベトナムの市場開拓のヒント(2020/09/11)
インドと南アフリカにおける出願件数の伸びが大きい。
インドは、人口が多いことからも市場としての魅力が大きいためではないだろうか。
参考:進出日系企業数が初めて減少(インド)(2022/06/28)
南アフリカでの出願件数は、中国の出願数が多い。これは中国の政治的な部分も大きく影響していいそうだ。
参考:習近平国家主席、南アに4度目の訪問、2国間協力を推進(2023/08/24)
新興国全体の傾向として、外国人のよる出願が多いことから、ビジネスとして外国からたくさんの企業が進出してきているといえるのではないだろうか。
3.まとめ
日本国内でみると、近年は出願件数等安定してきたようである。これは、特許出願の方向性が決まってきたためと考えられる。
世界に目を向けると、中国における特許出願の傾向等は、今後も注視が必要と考えられる。
また、各国の市場の魅力度、権利の使いやすさ、政治的な動き等様々な要因が特許出願の傾向に大きな影響を与えていることがわかる。
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